エマニュエル・マレス氏・田瀬理夫氏
2021年12月4日土曜日にてオンライン開催されたこの会は、JIA全国各支部、建築関係者、造園・ランドスケープデザイン関係者、学生ほか多方面へ呼びかけた結果、合計134名(JIA会員41名、一般40名、学生53名)の方に参加いただきました。
映画の中でジル・クレマンのガイドを務められ、書籍「庭師と旅人」を出版されたエマニュエル・マレス氏を基調講演に迎え、また書籍「動いている庭」の帯文を書かれた造園家の田瀬理夫氏と対談、ディスカッションをして頂きました。講演会前に映画「動いている庭」を上映し、映画の冒頭に解説を加え、より見識を深めていきました。映画監督の澤崎賢一氏には映画鑑賞後のアフタートークにて「分野が異なる専門領域の間における関係や影響」から「世界の新しい見方」を発見し、自らの世界観を問い直すヒントとなればと説明いただきました。
■第一部 基調講演 エマニュエル・マレス氏
「動いている庭」がフランスで出版されたのが1991年であったが、実は7年前にクレマン氏は原稿を準備していたとのこと。同時にアンドレ・シトロエン公園の造園を手掛け、実践と合わせて思想が世の中に広がり、クレマン氏は有名となりました。2015年に「動いている庭」は翻訳出版され、同年2月にクレマン氏は初来日。東京、京都で連続講演会を開催し大反響を納めます。そして2016年、初来日での滞在10日間とクレマン氏の思想と自然の考え方、2015年夏にフランスの自邸を訪れた映像記録をまとめたドキュメンタリー映画「動いている庭」が公開されました。
ジル・クレマン氏の基本理念は「できるだけ合わせて、なるべく逆らわない」。肩書は「ランドスケープデザイナー、植物学者、昆虫学者、小説家、思想家、芸術家、庭師」であるが、本人は「庭師」を強調している。「生きているものが相手であり、時間の中でどのように移り変わるのか」という考え、「生命」が一番大事なことと考えています。
クレマン氏には時代とともに大きく三つの思想『「動いている庭」→「惑星(地球)という庭」→「第三風景」』があります。
1986~92 「アンドレ・シトロエン公園」
「動いている庭」では、まず自由に種をまき、植物の動きに合わせながら道をつくっていき、また、その利用者の動きからも庭ができていきます。この、形が固まることなく動いていくという考えは、田瀬氏の語る、「そもそもランドスケープデザインはいつ完成時なのかよくわからない。(中略)形というより人と人、人と自然、人と社会の関係をつくってゆく仕事なのだと思う。」(※1『ひとの居場所をつくる』著:西村佳哲 より)に通ずるものがあります。
2005~06 「ケ・ブランリー美術館」「カメの庭」
建物は庭の一部である。幾何学、中心軸を排除したカメの甲羅をイメージした庭。非西洋的な庭園、在来種だけでなく外来種を受け入れ新しい生態系をつくる、自然や文化の多様性・混交から「惑星(地球)という庭」をつくり、逆らわず地球規模の混交を認めます。
2009~12 サン=ナゼール潜水艦基地
「第三風景」は空き地、放棄地、普段評価されない土地を、自然多様性の保護地区と捉える考え。「第三風景」として第二次世界大戦時の記憶を残しながら、屋上に「ヤマナラシの庭」「ベンケイソウの庭」、そして「ラベルの庭」をつくり、そこで学生は植生を学び、歴史は記憶に残っていきます。
■第二部 ディスカッション エマニュエル・マレス氏・田瀬理夫氏
今回田瀬氏は岩手遠野から参加されましたが、放し飼いの馬中心の環境管理のなかで住まい方を問い直すことで、限界集落はむしろ豊かになり、多様性を取り戻す実践をしています。また危険外来種についての捉え方は、バランスが重要であり、固有種なもの貴重なものを守るのではなく、日常的に地域、身のまわりにあたりまえにあることが「生物多様性」と考えています。社会性、公共性については、コンクリートの解体ガラを敷地の土木資材として再利用し「持ち込んだものは持ち出さない」ことを実践し、地球温暖化や生物多様性の衰退に答えられる社会性を大事にしていきたい。と締めくくりました。
■Q&Aにて
・土地の境界が細分化される現代において、「庭」から「環境」へ、境界線を越えるプランニングを心掛けることで「動いている庭」の思想が広がるのではないだろうか。
・西洋に比べて建築家のランドスケープに対する学習が足りない。建築を始める前に地域、植物、風景を理解し、建築の周りとの関係性を意識すべきである。
・今見える景色は戦後の「人間本位」がつくった景色であり、これからは「植物本位」「動物本位」も考えることで建築もランドスケープも変わっていく時代である。
・人にとって心がおだやかになる「庭」とは、形やスタイルではなく、「庭」に愛情を注ぐ、住まい手が育てる「庭」をつくると楽しく、生活することで本来の価値がわかる。
ジル・クレマン氏の思想、マレス氏、田瀬氏からの言葉は、どれも建築にも、また世の中すべてに通じて考えさせられる根幹であり、人間も自然の一部であることに帰り、地球に対して「できるだけ合わせて、なるべく逆らわない」ことが重要であり、クレマン氏の「私たちはまさに文明の岐路に立っているのであり、どうすべきかをもっと議論する必要があると私は考えます。」というのは前に進むことだけではなく、今までとは全く違った角度から物事を見渡すことが重要と感じます。
今後も植物の可能性、造園と建築を考え、さらには街、環境、地球へと考える機会となればと期待します。