2018~2019年度の東海支部長を務められた矢田義典さんのインタビューです。4つの時代に合わせてご自身の活動を語られました。
1、愛知県立芸術大学
2、矢田義典建築設計事務所
3、NO DETAIL IS SMALL
4、Communis
「原風景」である愛知県立芸術大学時代
東京の文系大学を卒業後、事務用品の営業マンを経て名古屋の名城大学の2部で建築を学ぶ。卒業後、愛知県立芸術大学大学院へ進みスペースデザインを学ぶ。2つの大学は都市部にあったが、県立芸大は緑が多く、体験したことのない楽しい2年間であった。「村のような大学」で生活したとも述べた。「渡り廊下のプロポーションからすべてのデザインを引き出した」と設計者の一人である奥村さんから聞いたそうだ。100メートルある講義棟のピロティ-も印象深い。最初の1年間はオペラの舞台を様々な学生たちと創り上げていくことが課題であった。演目は「ヘンデルとグレーテル」であり3人の同級生と設計から製作までを任された。完成したのち2日間にわたって声楽科の学生たちによって奏楽堂で演じられた。この経験は共同作業でつくりあげていく楽しさを知り、後に建築につながる感動的なものであった。また、彫刻科の学生たちがいとも簡単に創り上げていく素晴らしさに目を見張ったそうだ。



1997年に大学院を修了し、修行の後2002年には
矢田義典建築設計事務所を立ち上げ独立した
住宅やインテリアの仕事の依頼と共に陶器の依頼などがあったがなかなか実らなかった。そんな中で一つだけ実ったのが万年筆のインクボトル「ホタル」のデザインであった。陶芸の技術である「鋳込み成形」でインクのインジケーターを蛍手という技法で実現した。その後、インクボトルの依頼主であるPen’s Alley Takeuchiより改修工事も受注した。その時のオーダーが「手を一番使う仕上げは何ですか」というものであった。そこで選択された仕上げが「左官仕上げ」であった。淡路島の左官職人の久住有生(くすみなおき)さんによる手仕事の作品になった。円頓寺の事務所の外壁も久住さんの仕事である。
2016年には名古屋市円頓寺に
NO DETAIL IS SMALLを開店した
八木保さんが作られたアメリカのブランド「エスプリ」に掲げてあった言葉である。ディテールへのこだわりや気配り、心配りといった意味が込められている。店舗という「空間」を持ったことで一気に活動が広がっていく。この辺が建築家たる所以であろうか。新しく手に入れた店舗ではプロダクトデザインに力を入れて、メモ帳、インク採集というペーパークロマトグラフィーを利用したものなどをギフトショーに出品するようになっていた。「クロッキー」というスケッチブックがあるが建築やデザインのためのノートを作りたかった。
絵画 クロッキー―スケッチ―デッサン
建築・デザイン ラフドラフト―エスキス―ドローイング
キーワードでいえば「ダブルネーム」「アップサイクル」「パッケージデザイン」「グラフィックデザイン」「動画作成」「カフェ」「アートプロジェクト」「社会貢献活動」「文福連携」「地域づくり」「国際交流」などの広い活動を行っているが、息子さんの山村留学がキッカケであったり、すべての活動が緩く連携している印象である。



2023年から
建築家仲間を中心にCommunisを結成した
現在は任意団体であるが今後はNPO法人にしていく計画である。事務所のある円頓寺がジェントリフィケーションによって高級化している現状を憂いている方々と「キッチンかいわい」をオープンさせ、若い経営者のチャレンジショップをつくった。今後も「プロダクト」「食品プロデュース」「アートプロジェクト」などの企画がある。さまざまなジャンルの方がプロジェクトごとに参加しているしなやかな会であるが矢田さんの人柄が作る空気の元にあつまる人の輪である。矢田さん自体が楽しみながら
建築家ときどき・・・・・・・・・・・・・・・
なのである。
“ときどき建築家・・・・”が現在の悩みだそうである


視聴者の質問に答えて
Q-現在さまざまな活動をされていますが時間はどのように作っているのですか?
A-Communisの活動はすべて一人でやっているのではなくて4人の建築家で興味のある分野を分担しています。私は言い出しっぺなので逃げることが出来ず、すべてに関わっています。

Q-収入は?
A-やはり中心は住宅などの設計です。現在も2軒設計中です。アートワークについては名古屋市の助成金を活用したりクラファンやスポンサーを集めたりしています。
Q-さまざまなプロジェクトはどんなきっかけで?
A-何かやりたいことがある人がプロジェクトをスタートさせています。アートに興味があったが、作家ではないのでアーチストの応援に回っています。

Q-コロナによって建築家の働き方が変わっているというシンポジウムを企画しているが、矢田さんは昔から続けているのが驚きでした。
A-プロダクトは妻の影響です。スタッフも芸大出身者が多かったので自然と違ってきたのでしょうか。
60歳を超えて体の無理がきかなくなったのでみんなを集めて一緒にやりたいです。
Q-どの活動が一番楽しいですか?
A-「建築とノート」かな?建築は自分たちですべてやっていないのが気になる。今後住宅の仕事はCommunisのグループでやる。スタッフも共同で抱えたい。
本音「奥さんのチカラが大きいです」

Q-建築とは本来は職人との協働が大切であり、その延長線上に矢田さんの活動がある気がします。
A-夫婦でロックのコンサートに行くのが楽しみなんですが、最近の若いミュージシャンの楽曲にギターソロがないのが気になります。聴く方もギターソロを飛ばすそうです。若手建築家の簡素化に通じているのではないだろうか?

Q-私も地方でアートプロジェクトを10年やっているがCommunisみたいな枠組みがなかなかできなくて興味深かった。人の輪はもともとの集まりだったのか、スカウトしたのか自然と集まってきたのか教えて。
A-仕事のみの関係のメーカーさんからさまざまですね。巻き込まれ体質だと、よく言われたが巻き込み体質に変身してみた。自然とさまざまな人の輪が広がってきたようです。
文責:東海支部 𠮷元 学
(ワーク〇キューブ/愛知淑徳大学)