Interstellar Architecture
インターステラー・アーキテクチャー 様々な星=異分野をつなぐ自由な建築
辺見設計 邉見啓明

流星群が綺麗な那須連峰の麓に育つ
福島県西郷村という自然豊かな那須高原の近くで高校生まで過ごしました。夜になると星が美しく、2001年のしし座流星群の大出現では、夜中、午前12時頃に、かつて実家にあった最上階のロフトの窓から屋根に出て、そこに布団を敷いて大量の流星群を寝そべりながら観察しました。建築を専攻しなければ、宇宙物理学者や天文学者になる夢を持っていました。天体観測が趣味で、自宅に自動追尾型のカセグレン式天体望遠鏡を設置し、月や惑星、星雲などを見ています。今回のタイトルであるインターステラー・アーキテクチャーも、宇宙好きが転じて、クリストファー・ノーラン監督の映画作品から着想しています。(国立天文台の本間希樹教授が登壇されたJIAトークが今までで最も興奮しました(笑))

栗生明先生との出会い
小学生の頃、偶然に親戚の叔母から渡された「植村直己・地球冒険62万キロ」という本で、植村直己という冒険家を知り、その後、植村直己冒険館という建築がある事を、JIAマガジンの表紙で知ることになりました。建築の大部分が地中化されていることや、耳慣れなかったランドスケープデザインという言葉、そして、この計画をまとめた設計者が、他の専門領域とのコラボレーションを大切にする栗生明先生であることを知りました。「建築は地面の上に建てなければいけないものではなく、自由で良いのだ」と、目の前の霧が晴れたような気持ちになり、先生が教鞭を執る大学院の研究室に入ることを志すようになりました。

世界地図
大学院時代のゼミでは、栗生先生から「例えば住宅など、どんなに小さな建築を考える時でも、先ずは「世界地図」を広げることから始めなさい」と言われ、その言葉を大切にし、実際に会社の自席の後ろに、アフリカ大陸が中心にある世界地図を貼って作業をしています。枠に囚われず、スケールを横断して自由に考える事を大切にしています。

久米設計での経験
栗生先生からの学びを得た後、一度、日本の中心である東京の大組織で働き、社会に揉まれたいと考え、組織事務所である久米設計に入社しました。久米設計では、オフィスビル、銀行本店、高校、大学、ホール、アリーナ、病院、医療センター、研究所、宗教施設など、業務範囲は多岐に渡りました。建築の規模も500㎡~23万㎡までと、様々なスケールを体験しました。設計業務だけでなく、数多くのプロポーザルを経験できたことも貴重な経験となりました。設計業務と並行しながら、延べ30件近く関わったプロポーザルでは、設計力だけでなく構想力やプレゼン力も必要とされ、養われたのではないかと思います。また、企業の組織化、合理化、効率化、業務量の見通しなど、経営や運営に関する知識が得られたことも大変勉強になりました。先輩後輩との自由闊達なコミュニケーションや風通しの良い企業環境とともに、海外研修にも行かせて頂けたことは、建築以外の広い視野を養う上での貴重な糧となりました。
Interstellar Architecture
インターステラー・アーキテクチャー
宇宙的な大きなスケールで物事を考える事と、異なる分野を横断し、それを自由な発想で統合する建築を、自分の中で「インターステラー・アーキテクチャー」と名付け、異なる星と星を行き来して星座を描くように、異分野の間をつなぐ建築を造っていきたいと考えています。イメージ化すると、建築という「星」を中心として、その周りを様々な天体(異分野の領域)が周り、それぞれ、大きさや、建築という星からの距離感、周回軌道が違っていて、ときたま、コロナウイルスやウッドショックのような、予期せぬ彗星が、建築に接近してくる場合もあります。建築という星をベースにして、様々な他の星と星をつなぐ、或いは、建築という星から他の星に飛んで行き、専門外である事について調査・研究する、そのようなイメージで設計に取り組んでいます。

PROJECTのこと
【大規模林業と小規模林業をつなぐ建築】(東白川森林組合事務所)
木材の先進的な技術に注目しつつ、地場の工務店でも施工可能な一般在来工法を基本として地域経済や材料調達に貢献できる木造を実現し、先進技術と伝統工法のベストミックスを図っています。「東白川森林組合事務所」は、CLTやLVLという先進技術を活かした工法と、一般流通材を組み合わせて構成した木材トラス工法のハイブリット構造であり、建築を目で見て、どこにどの工法が使われているのか分かる「木工法の見える化」を試みています。

【農業と林業と教育をつなぐ建築】(アグリカレッジ福島)
シーラカンス&アソシエイツとのJVでプロポーザル選定されたアグリカレッジ福島(福島県農業短期大学校)では福島型サスティナブルサイクルマネジメントを提案しました。農業短期大学の新たな学生寮やホール棟などの新築建て替えに必要な木材:約800㎥の調達を切掛けとして、県森連と県木連が協働し、県行造林という活用されていない県有林を利用するために先行調達に掛かる費用を予算化し、更には調達時に伐採した跡地の植林も行い、福島型林業のモデルとして発信する材工分離発注を提案しました。しかし、初めての取り組みであることや、木材先行調達時の入札対象業者数が50社以上となり、入札によって適正な業者が落札されるのか未知数であったことなどから、実現に至りませんでした。しかし、この提案が切掛けとなり、福島県の土木部と農林水産部が中大規模県有建築物指針による建築ガイドラインを作成したことは成果の1つではなかったかと思います。(2025年1月末に完成し、新建築:2025年4月号の表紙となりました)

【まちと福祉と林業をつなぐ建築】(みんなのまち)
私たちは無意識の内にカテゴライズされた世界を生きています。それは福祉の世界でも同じです。健常者と障がい者、雇用するものとされるもの、管理するものとされるもの、異なる立場の間に目には見えない境界線を引き、振る舞うことがあります。そのような境界線を取り払い、そこにいる人全てが、活き活きと、その人らしくいられる居場所を考えたのが、(公財)日本財団主催で開催されたプロポーザル、みらいの福祉施設で選定された「みんなのまち」です。就労支援B型の施設であり、おにぎりやパン工房とともに、交流サロンやシェアキッチン、トレーニングスペース、住民自治スペースなどがあり、まちの方々が利用し、滞在できる「みんなのまち」として再構築することを目指しています。また、地元の自伐林業家や製材所と連携した木材の活用も考えています。

【ひと・もの・こと・歴史をつなぐ建築】(蔵を活かしたイベント+リノベーション)
白河市の谷津田川沿いにある座敷蔵を活かしたイベントとリノベーションの取り組みです。他県から移住した方が定期的にチルコーヒーのイベントを開催し、そこで得られた収益を基に、最終的にはカフェにリノベーションしたいという思いから始まりました。蔵のリノベーションだけでなく、収益を生み出す仕組みづくりまで含めたまちづくりの取り組みです。

【福島とプロダクト(先端技術)をつなぐ建築】(ロボット開発研究施設)
現在進行中の、ロボット開発と研究施設の設計です。3.11の被害を受けた東北、特に福島は原発災害からの復興道半ばですが、全国のベンチャー企業が参入して挑戦できるプラットフォームをつくるという施策の一環で、新たなテクノロジーを研究・開発する建築の提案です。

【暮らしとエネルギーをつなぐ建築】(大熊町復興住宅)
原発事故で被災した福島県大熊町の大野南地区に設計した復興公営住宅群(プロポーザル)です。各住戸がZEH+を取得し、住宅・蓄電池・電気自動車の3つが繋がるトライブリットシステムを構築し、暮らしとエネルギーの新たな連携を提案しています。

【日本とアフリカ・福島とルワンダをつなぐ建築】(Rwanda Project)
アフリカ・ルワンダでの子育て支援施設と小中一貫校整備のプロジェクトです。ルワンダは、1996年4~7月のたった3ヶ月の間に80~100万人が虐殺されたという悲惨なジェノサイドを経験した国です。ジェノサイドを間近で目の当たりにし、命辛々、若いころに留学経験があった日本の福島県に避難したNPO代表が、二度とこのような悲劇を繰り返してはいけないという思いと、教育こそ国の未来の礎という揺るぎない信念によってプロジェクトを進めることとなりました。2024年2月には、1週間ほど現地視察に行き、現地の気候やインフラを調査しました。建築単体のスケールを越えて、国土、交通、土木、水道、社会インフラ、自然エネルギー等、他分野を横断する発想が大切です。取り組み体制も横断的とし、大学などと連携し、研究や教育にも波及させたいと考えています。(2025年8月に横浜市で開催されたTICAD9にも参加しました)
【1枚の衛星写真から考えること】
この写真は、東京を訪れていた際に偶然に目にした、NASAの人工衛星から撮影した「夜間の地球から見える光」という題の写真です。よく見ると、極東の日本は隅から隅まで明るく照らされています。一方、アフリカ大陸、特にルワンダのある中央アフリカは特に暗くなっています。この写真は示唆に富むと考えます。私たちがすべき事は、ルワンダを日本のように隅から隅まで明るくする事でしょうか。そうではないと思います。3.11を経験した日本人、そして、フクシマの人間だからこそ提案し得る、人と建築、エネルギーの関係があると考えています。ルワンダでしか成し得ないプリミティブでバナキュラーな建築を追求したいと考えています。

【今後の夢】
私には秘かな夢があります。ルワンダに設計する新たな学び舎に、天体望遠鏡が置ける場を設け、子供たちと一緒に満点の星空を見上げる事です。暗いからこそ見える世界、光がないからこそ得られる自然の豊かさを、ルワンダの子供たちと一緒に体感し、果てなき宇宙に思いを馳せたいのです。私自身が嘗て、高校生まで過ごした自然にあふれる福島県西郷村の、街灯の光も疎らな僻地の学校の校庭で、息を吞むほどに美しい天の川と、国境など感じさせないほど、どこまでも広がる満点の星空を見上げた、あの時と同じ感動を、現地の子供たちと共有したいと思っています。
CROSS TALK
Q.全て共通なのは建築が真ん中にあり、様々な異分野を結んでいく作り方ですが、例えば、日本財団のプロジェクトでは、邉見さんは提案だけではなく、どこまでパイプ役として踏み込んでいるのでしょうか?
A.日本財団のプロジェクトについては、第1回目のプロポーザルから福祉事業団さんと一緒に提案をして、第3回目でやっと採択されました。障害を持たれた方の就労支援というものの実態が、工賃1万6000円、時給に換算すると100円とか200円など、このプロジェクトを通じて分かり、何よりもその人の居場所を作ること自体、障害の有無にかかわらず、立場や年齢が異なっても、居心地の良さというものは一緒なのではということを事業団の方と共有するところから始めました。その中で非常に刺激を受けたのが、社会福祉法人・佛子園の代表の方が仰られている「ごちゃまぜの世界」という言葉と、その理念でつくられた就労支援施設です。実際に、その施設のある宮城県岩沼市まで見学に行きました。主は温泉施設なのですが、その中にフィットネスジムやカフェ、休憩場所があり、そこで働かれている方も、健常者の方から障がい者の方まで堺無く働かれている。また、温泉利用する一般の方が、「あの人、今日見かけないけどどうしたんですか?」というように、見守り役となる機能も果たしている。多様な方が混在し、ヒト、モノ、コトの全てが混ざり合う世界観を共有をするところから、パイプ役として心掛けました。
Q.マルシェやカフェなどありますが、その運営などはには関与されているのですか?
A.試行錯誤しながら一緒にやっています。建築は完成したものの採算が合わないとなっては駄目なので、弊社から福祉事業団に対して飲食に特化したコンサルタントを紹介したり、地元のカフェ経営者や、お惣菜屋さんを紹介し、運営面でもサポートすることを心掛けています。また、地元の林業家の方にも、こんな魅力的なプロジェクトがありますとプレゼンテーションし、材料調達に協力頂くなど、多方面に働き掛けをしています。
Q.どんどん繋いで、色々な分野を巻き込んでチームを作っていくという感じでしょうか?
A.そうですね。私自身も地元に戻ってきて商工会議所にも入ってるのですが、そこでの異業種の方との接点というものが非常に刺激になり、建築とは異なる考え方や繋がりの輪を広げていくことも併せてしています。
Q.林業と建築をつなげて、地場の工務店でも可能で、ハイテクばかりにこだわらない考え方に共感したのですが、ウッドショックで顕在化したような木材流通の需要と供給のバランスや、川上と川下との関係をどのように変えていくのが望ましいのか、お聞かせください。
A.私も元々、林業については造詣は深くなかったのですが、父が、元々、木造建築を多く手掛けており、その延長で、素材としての木材の知識だけでなく、国産材の流通や外国産材の動向などを頻繁に考えるようになりました。その中で思うのは、設計事務所は設計のみ、施工会社は施工のみ、製材所は製材のみ、山を持つ方は山のみ、というように専門分化していることが、全体の流れを見えにくくしているのかなと思っています。例えば設計者は図面を描いて、これが一体いくらでできるのか、或いは、その木材をどこから調達するのか、本来であれば施工者や製材所が考える領域まで想像が及べば、見え方は変わってくるのかなと。その為に、こちらから自伐林業家や製材所を訪れて、1日のスギ材の出荷材積や、最近入手が容易な樹種、困難な樹種などを聞くなど、情報交換を密にする環境の構築が重要で、この部分に商工会議所などでの繋がりが活かされています。最終的には設計事務所として山を一つ持つことも良いのではと考えたりもします。建築を考える際の思考方法を、従来の、「デザイン→(森林)資源」ではなく、「(森林)資源→デザイン」という逆ベクトルにすることも重要ではないかと考えています。
Q.白河市の蔵の再生プロジェクトで、福島県三春町という場所でも蔵が沢山あるのですが、持ち主や事業者がなかなか活かせていない。チルコーヒーのイベントなど色々な人たちが協力をするための仕掛け人が何人かいるのでしょうか?
A.仕掛け人として一番大事なのは、やはり事業者の方です。チルコーヒーの場合は、横浜出身で白河の歴史的な蔵や路地が残っており、まちのスケール感がとても好きと言う方が移住されました。その方が、この蔵をどうしても残したいという思いがあり、残すための方法論を考えている中、ブルースタジオの大島さんのまちづくりワークショップが白河で開催されました。我々も設計事務所として参加し、蔵を残すことに加えて、そこでお金を生み出す仕組みをセットでつくることを考えました。その手段としての、チルコーヒーやイベントづくりとなっています。これは、Rwanda Projectでも一緒ですが、事業者の資金が限られている中で資金調達をどうするか、一緒になって考えていく。設計事務所の業務範囲の枠を超えて考え、発信し、色々な異業種の方との接点を持つことが重要と考えています。
Q.アフリカのルワンダでもいいのですが、空を意識した建築が出来ればと思いますが、その辺の展望を聞かせてもらえれば。
A.そうですね。天文台を設計してみたいという理想はあります。光がないことで、夜空が綺麗に見えるというのは生まれ育った環境やルワンダも一緒かなと。不便であるからこそ見えてくる世界があるのかなと思います。ルワンダの場合は、小中一貫校と子育て支援施設に、夜空も見えるような場所が作れたら、日本から天体望遠鏡を持って行って、そこで、ルワンダの方や子供たちと一緒に夜空を見れたなら、違った意味での繋がりが出来るのかなと思っています。

