建築家・金城司インタビュー:沖縄で既成概念を疑い、建築の可能性を拓く

沖縄県南風原町に拠点を置く「有限会社門(じょう)一級建築士事務所」の建築家、金城司氏は1995年から約30年間、沖縄の風土と向き合いながら主に住宅設計を手がけ、その数は240件ほどに上ります 。
金城氏の建築への道のりは、常に「既成概念を疑う」ことから始まります。密集市街地での徹底的に閉鎖的建築の設計から、尊敬する世界的な建築家・窪田勝文氏に自邸を託すという異例の試みまで、その思索の変遷を自身の言葉で語っていただきました。
抽象化への気づき:「閉じる」ことで見えた豊かさ
初期に計画した、ある住宅が金城氏の建築観を大きく変えました。密集地にありながらプライバシーと開放性を両立させるため、中庭を持つ白い箱のような、外に対して閉じた建築を提案しました 。

「建築の抽象度を高めることで、何か周辺の建築や環境がより鮮明に浮かび上がるんじゃないかと感じたんです 。閉じることで、逆に背景としての方がより浮かび上がる。閉鎖的な建築にも一つ可能性があるんじゃないかなと、この建築で感じることができました 」
この「閉じる」という選択は、予想外の自由をもたらしました。

「徹底的に閉じることで、カーテンの設置が不要になったり、日中、照明をつけなくても生活を送ることが可能になったりしました 。開口部をフルに開放できるので空気の流れを生み出しやすく、エアコンの使用量も減らすことができました 。この建築をきっかけに、今まであった様々な既成概念を疑い始めながら建築をつくるようになりました 」
庭、そして環境へ:繋がりを求める
「閉じる建築」の可能性を探求した後、金城氏の意識は次第に「庭」や「環境」といった外との繋がりへと向かいます。沖縄建築賞で正賞を受賞した「中村家住宅」では、現代における沖縄の民家の心地よさを再解釈しました 。


「沖縄の古民家にある、暗い影の中から外を見る心地よさ。これを現代でできないかと考えました 。何もつけない、まっさらな白い天井を『白い影』と捉えて、天井面に基本的な照明を付けないことを提案したんです 。夜になると光源が直接目線に入ってこないので、白い空間に包まれたような居心地の良さがある。昔の古民家が持つ影の中に包まれた心地よさを、現代の白い壁で感じられるのではないかと 」
さらに、建物を介して南北の庭と景色を一体化させたり 、建て替えによって閉ざされていた海の眺望を地域に開いたりと 、その試みは建築単体から周辺環境へと広がっていきました。




究極の実践「KI-HOUSE」:建築家が、建築家に自邸を託す

金城氏の探求は、自ら施主となり、尊敬する建築家・窪田勝文氏に自邸の設計を依頼するという、前代未聞のプロジェクトへと至ります。きっかけは、窪田氏が沖縄の海の美しさに深く感動する姿を目の当たりにしたことでした 。
「窪田先生が南城市の海を見て、その美しさにものすごく感動していたんです 。それを見た時に『この先生の傑作は、もしかしてここで生まれるんじゃないか』と勝手に思って 。最高のロケーションを探すから設計してほしいと頼み込みました 。要望はただ一つ、『先生の歴史に残るような建築を作ってほしい』とだけ伝えました 」
施主でありながら、現場監理者としてプロジェクトに深く関わる中で、金城氏は衝撃的な体験をします。
「自分だったらこうするという経験値の答えがあるのですが、窪田先生はこちらの考えとは異なる判断をすることが何度もありました 。びっくりするくらいに 。こっちは必死に『これだと良くないと思います』と伝えるのですが、『いや、絶対こうだ』と譲らない 。でも、施主として傑作を依頼した以上、先生の意思を尊重してやってみると、ものすごく空間が変わっていくのが見えてくる 。建築の完成度や空間の作り方に対するビジョンの見え方が、まるっきりレベルが違うと認識しました 」
その妥協なき姿勢は、一枚の巨大なガラスを巡る攻防にも表れていました。
「メーカーから『こんなに大きいガラスは作れません』と一度断られた事がありました 。しかし、先生は『できる』と言う。そこからこのガラスができる業者を探すまでに1年近くかかりました 。先生は普段は優しい方ですが、建築になったらもう一切妥協を許さない 」世界レベルでの建築家としての姿勢を間近で学び取る事ができ一生涯の財産となりました。
完成した自邸での暮らしは、驚くほど快適で、台風の夜でさえ「ガラス張りのリビングで爆睡したぐらい静かだった」と語ります。その秘密が風を上に逃がすエッジの尖った軒先や水盤の形状や、厚さ24mmの合わせガラスにあると分析しています 。


SNSでの発信と新たな繋がり


金城氏は、この自邸での暮らしをSNSで積極的に発信しています 。芝生の手入れや日々の食事、空間の様子を公開することで、「建築家の特別な家」ではなく、豊かで快適な生活が営まれていることを伝えています 。この発信は、建築文化への理解を一般の方へも広げたいという思いからです 。
この家は新たな繋がりも生み出しています 。建築を学ぶ学生の見学会や、JIA(日本建築家協会)の講演会、ヨガイベントなどが開催され、地域を盛り上げる活動の拠点にもなっています 。

「常に既成概念を疑い、社会的な実践者でありたい」。金城氏の言葉通り、その建築と思索の旅は、これからも沖縄の風土の中で新たな可能性を切り拓いていくことでしょう 。
